乱読からのつぶやき

「こほろぎ」尾崎一雄

私小説短編8作納められているこの本は、会話の中に、ほのぼのと一緒に居るような感じで読める。病気がちな作者、戦中の出来事がゆっくりとした時間で流れている。「落梅」では、梅の実が落ちる6月になると母の死について思い出し、母の望み通り、脳溢血で穏やかに自宅で亡くなる様子が良い。

「山下一家」…私が、牛込の馬場下町から、この上野櫻木町へ超したのは、丁度支那事變が始まつた年の九月であつた。私は、この年の四月に、昔からの友人がやつてゐる本屋から最初の短篇集を出す (中略) すると、七月七日に支那事變が起り、おやおやと思つてゐると、同じ月の二十一日に、どうしたわけか私の出した短篇集に芥川賞といふのが當つた、またおやおやと思つた…

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装釘:中川一政。木版:東京版畫協會・長田眞理和。