乱読からのつぶやき

「砂の女」安部公房

鳥のように、飛び立ちたいと願う自由もあれば、巣ごもって、誰からも邪魔されまいと願う自由もある。飛砂におそわれ、埋もれていく、ある貧しい海辺の村にとらえられた一人の男が、村の女と、砂掻きの仕事から、いかに脱出をなしえたか…色も、匂いもない、砂との戦いを通じて、この二つの自由の関係を追求してみたのが、この作品。安部公房の名作。何回読んでも面白い。

 

「東京都同情塔」九段理江

170回芥川賞受賞作。テンポよく一気読みがいい。

…AIの文章が彼女の口を通り、その言葉が僕の耳を通過して、頭の中に確かな手触りを持った頭丈な塔が建設されていくのを、不思議な気持ちで眺めていた。ディテールが付け足され、内部の状況が次第に鮮明になってくると、塔は窮屈そうに僕の狭い頭を飛び出し…

カバー写真:安藤瑠美「TOKYO NUDE」

 

「沖の稲妻」内田百閒

昭和17年発行、随筆集。戦争の事や関東大震災後の事など書かれている。

…今日までの生涯のうちに三度大戰爭に會つた。この頃の明け暮れに大空の如く覆ひかぶさつた戰爭中と云ふ氣持を古い記憶に結び附けて見る(略)戰爭中でも世間の氣持は落ち着いてゐた様である。しかしなんにも事がなかつたわけではない…

新潮社版

あなたを閉じこめる「ずるい言葉」 森山至貴

大人より弱い立場にある子どもが、「ずるい言葉」にだまされないようにするためのヒントを伝えること、大人にも実感を持ってもらうための本。「いい意味でらしくない。」「そのうち気が変わるんじゃない。」など29の例が書かれ、分析・解説している。無意識に使っている言葉が多くあり、自分なりに、表現の仕方や言葉使いに意識をもって使うようになった。

イラスト:神保賢志

 

「生殖する人間の哲学」中真生

母性と血縁を問いなおす。「第一の親」、母とは、父とは、育ての親とは。

…生むことに代わって、母であることのもっとも重要な核となるのは、性別に関係なく、また自分が生んだかどうかにも関係なく、育てることを中心に子どもと深くかかわることにあると考えた…

装丁:大村麻紀子

「しかもフタが無い」ヨシタケシンスケ

この本は、ヨシタケさんが、30歳のときに初めて書店に出た本の文庫版です。粗削りなところがありますが、ヨシタケワールドに引き込まれます。初版は、カバー裏にもお楽しみがありました。