乱読からのつぶやき

「砂の女」安部公房

鳥のように、飛び立ちたいと願う自由もあれば、巣ごもって、誰からも邪魔されまいと願う自由もある。飛砂におそわれ、埋もれていく、ある貧しい海辺の村にとらえられた一人の男が、村の女と、砂掻きの仕事から、いかに脱出をなしえたか…色も、匂いもない、砂…

「東京都同情塔」九段理江

170回芥川賞受賞作。テンポよく一気読みがいい。 …AIの文章が彼女の口を通り、その言葉が僕の耳を通過して、頭の中に確かな手触りを持った頭丈な塔が建設されていくのを、不思議な気持ちで眺めていた。ディテールが付け足され、内部の状況が次第に鮮明になっ…

「沖の稲妻」内田百閒

昭和17年発行、随筆集。戦争の事や関東大震災後の事など書かれている。 …今日までの生涯のうちに三度大戰爭に會つた。この頃の明け暮れに大空の如く覆ひかぶさつた戰爭中と云ふ氣持を古い記憶に結び附けて見る(略)戰爭中でも世間の氣持は落ち着いてゐた様…

あなたを閉じこめる「ずるい言葉」 森山至貴

大人より弱い立場にある子どもが、「ずるい言葉」にだまされないようにするためのヒントを伝えること、大人にも実感を持ってもらうための本。「いい意味でらしくない。」「そのうち気が変わるんじゃない。」など29の例が書かれ、分析・解説している。無意…

明治座筋書

明治時代の歌舞伎パンフレット 芽出柳翠綠松前 明治26年10月26日内務省許可 明治30年3月13日発行 定價金八錢

「生殖する人間の哲学」中真生

母性と血縁を問いなおす。「第一の親」、母とは、父とは、育ての親とは。 …生むことに代わって、母であることのもっとも重要な核となるのは、性別に関係なく、また自分が生んだかどうかにも関係なく、育てることを中心に子どもと深くかかわることにあると考…

「しかもフタが無い」ヨシタケシンスケ

この本は、ヨシタケさんが、30歳のときに初めて書店に出た本の文庫版です。粗削りなところがありますが、ヨシタケワールドに引き込まれます。初版は、カバー裏にもお楽しみがありました。

「現代思想入門」千葉雅也

立命館大学文学部の授業「ヨーロッパ現代思想」をベースに書かれた新書。読み方、考え方を伝えながら、理解しやすく作られている。フランスを中心に展開された「ポスト構造主義」デリダ、ドゥルーズ、フーコの事から書かれ、最後は、「ポスト・ポスト構造主…

「外科室・海城発電」泉鏡花

初期の代表作7編。明治期の表現で読みにくさはあるが、医師と患者の間柄で再開し手術する話や、検察官と殺人犯の間柄の話など内容にインパクトがある。 …渠は有間惘然として佇みぬ。その心には何を思ふともなく、きよろきよろと四面を眗せり。幽寂に造られた…

「新戦後派」野坂昭如 寺山修司 永六輔 野末陳平

昭和44年に刊行された本。4名の著名人に毎日新聞社編集部が、インタビューしたものをまとめている。この4人は、昭和一桁生まれで、1945年8月15日に、何歳でどこにいて、終戦をどう迎えたかのか。昭和一桁生まれは、精神形成初期に、日常生活も教育も、国家に…

「透明な夜の香り」千早茜

集英社ナツイチの1冊。調香師の家で家事手伝いのアルバイトをする主人公の話。美味しい食事が出てくるところは千早さんの作品らしい。“香り”というものをあらためて考えた。 カバーデザイン:大久保伸子

「贋作吾輩は猫である」内田百聞

夏目漱石の名作「吾輩は猫である」の三平君のビールを飲んで酔っ払っているところから始まる。人間観察の描写が面白い。 …君のとこの長唄の三味線なんか、よせばいいのだよ。今まで黙ってゐた校長の波斯猫が、にがにがしそうに云った… 装画:川上澄生

「Chat GPTがよくわかる本」イワタ ヨウスケ

基本的な仕組みや、現在の流れ、使い方や質問の仕方など分かりすく書かれている入門書。関連書を数冊、同時に読むと理解力があがる。

「いのちの初夜」北條民雄

ハンセン病(癩病)患った青年が、収容施設に入り、生活や闘病生活の事など8編。あとがきは、川端康成が書いている。 …意志の大いさは絶望の大いさに正比する、とね。意志のないものに絶望などあろうはずがないじゃありませんか。生きる意志こそ絶望の源泉だ…

「天才はあきらめた」山里亮太

山ちゃんのこれまでの生活が書かれている。M1グランプリで準優勝し、M1バブルのことや、ネタ作りの執念が伝わるエピソードなど読みごたえがある。包み隠さず、気取らず書かれているのが良い。 …街中をぶつぶつ言いながらメモを取りながら歩いて、壁にぶつ…

「銀座幽霊」大阪圭吾

昭和10年頃に、雑誌「新青年」に掲載された短編11作品。戦前の雰囲気も味わえる。 …全く、座席の後ろの四角い硝子窓からは、テール・ランプに照らされて仄赤くぼやけた路面が、直ぐ眼の下に見えるだけで、あとは墨のような闇だったのだが、直ぐにその闇の中…

「純喫茶とあまいもの」難波里奈

慌ただしい日々の中での小さな逃避行としてもちょうどよく、懐かしい雰囲気にほっとできる空間が、昔ながらの喫茶店です。 見ているだけでも楽しい本、行ってみたくなる本。 新装版 デザイン:田山円佳

「レンズが撮らえた幕末明治の女たち」 監修 小沢健志

幕末明治の日本に生きた女性たちを今に見ることができるのは、十九世紀半ばから後半の世界における写真の勃興期に、いち早く隆盛した初期日本写真の功績によるものである。明治に東京百美人・・美人コンテストがあったことにビックリ。今見ても美人揃い。レ…

「学び続ける理由」戸田智弘

99の名言と学びについて書かれている。一通り読んだら、時々ペラペラめくりながら読みたい。 …自分が学んだことを、誰か他の人に教えてみる。そうすることでもう一度学ぶことが出来る(略)他の人に説明してみると、自分の理解が不十分だったり、曖昧だった…

「こりずに わるい食べもの」千早茜

わるい食べものの第3弾。何々が嫌いだと言い切るエッセイ。食べることが大好きなことが良く伝わってくる。今回は、京都から東京に引っ越し、コロナ禍のときに書かれた作品。茜氏、挿絵担当北澤氏、編集T嬢との仲の良さが3作に繋がったのかも。 …京都を離れる…

「街とその不確かな壁」村上春樹

読了。世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド、海辺のカフカ、騎士団長殺し、そしてノルウェーの森などの要素が入った作品。村上ワールド満載。文學界1980年9月号に掲載された作品を書き直した作品。 …コーヒーショップのスピーカーから流れる、ポー…

「双面の天使」小池真理子

表題の作「双面の天使」新しいママがふたりに頼んだ赤ちゃんとの留守番の話。子どもたちが行ったことだけに怖さが倍増する。他の作品含ためサイコ・スリラー4編。 …三月というのに、雪でもちらつきそうなほど寒い日だった。午後五時。日が落ちて、窓の外はす…

「脳科学者の母が、認知症になる」恩蔵絢子

記憶を失うと、その人は“その人”でなくなるのか?をアルツハイマー型認知症の母と生活の中から、学者目線と家族目線の両方から書かれている。人それぞれだろうが、状況分析がアルツハイマー型認知症の理解につながる分かりやすい本 ...母の変化は、要するに…

「モア・リポートの20年」小形桜子

1980年、雑誌「モア」誌上で女性の性に関するアンケートが実施された。1987年には、モア・リポートNOW。1998年には、モア・リポート99が実施され、この3回のリポートを基にまとめた新書。女性の性の実態が分析されている。 2001年1月22日第1刷発行 …我々の社…

「なにがなんでも ほがらか人生相談」鴻上尚史

ほがらか人生相談の4冊目。多様な相談に的確に答えている。演出家、鴻上さんの苦労の賜物と思われる。参考になります。 …まずは、楽しさを経験させ、そして、ほめるのです。なんでもかんでもほめろと言っているのではありません。ほめる時には「待つ時間」が…

「見仏記」いとうせいこう みうらじゅん

仏像愛が伝わる作品。いとう氏とみうら氏のコンビも絶妙。 …表情や様子は大切なもので、その形は人間の表情を支配する。気持ちがなごむから微笑むのではなく、微笑むから気持ちがなごむこともある。まるで奇妙な鏡のように、その如意輪は私に微笑みの形を教…

「灯のうるむ頃」遠藤周作

東京の片隅で一人ひっそりと町医者を営みながら、癌の研究を続ける老医師と医師を目指すその息子等のお話。親子世代を超えて関わる、狩野医師家族の構造が絶妙。 カバー:和田誠

「そこから青い闇がささやき」山崎佳代子

ベオグラード、戦争と言葉。と副題が付いている。山崎さんは、セルビア共和国ベオグラード市在住の詩人、翻訳家。当時、ユーゴスラビアで戦争が起きていた時に、避難せずに生活を続けた。戦争では、橋が落とされ、病院や学校が爆撃された。近隣の知人が亡く…

「夜は満ちる」小池真理子

短編集、7作品収録している。大人の恋と怖さが癖になる作品。 …父は二十数年前、この家を建てた後、女と暮らすために出て行った。初めっから、そのつもりだったのよ、と母は後になって言ったものだ。あたしたちにこの家、残して、これで文句はないだろう、っ…

「珈琲挽き」小沼丹

講談社文芸文庫で読む。随筆集で、3部に分かれている。一部*は、身近な出来事。二部**は、自然、家の庭の事。三部***は、イギリスでの生活などが書かれている。全編、ほのぼのとした内容。 …いつだったか、この帽子を失くしたことがある。酔っていたか…