乱読からのつぶやき

「夏日夜話」東京朝日新聞社会部編

陽なたに出て、暑熱を越えての2部構成になっている。昭和2年8月発行なので第2次世界大戦前の様子が伺える。後半(暑熱を越えて)は、若き記者の体験談になっている。足尾銅山の坑夫体験、蒸気機関車の火夫体験(中央線の八王子駅発名古屋行き列車)、新宿駅で靴磨き、火見櫓の見張り、戦車隊に参加、8時間宙乗り、荒川の砂利採、道路人夫など、新聞記者の奮闘ぶりと、時代を感じる内容が面白い。

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…ウーイ、けふは毛唐の國ではエープリル・フールといつて嘘をつきあつて人を騙す日だといふぢやないか、シベリヤだつて滿洲だつて構ふことはあるめえ…

…十一番抗でケージはピタリと止まつた。ここは地表を下へ千六百尺、足尾銅山の最深處は十二番抗、即ち地下千七百五十尺のドン底だ(中略)どん底には一面のぎうぎうする濁流が、緩くのたうつて動いてゐる(中略)百度近い炎天の下を駈足で、ぐたりと倒れさうな時の氣持ちだ(中略)ざぶさぶと二三間歩くか歩かないのに、全身に衰弱と嘔き氣を感じてきた。淡い電燈がところどころについてゐるが、暗黑が奇怪な重苦しい感覚で迫つてくる…