大正九年頃から、俳句雑誌「澁柿」に即興的漫談を載せて来たものをまとめたエッセイ集。「此書の讀者への著者の願は、なるべく心の忙しくない、ゆつくりした餘裕のある時に、一莭づつ間をおいて讀んで貰いたいといふ事」と記されている。寺田氏の気持ちが短文ににじみ出ている。
…向日葵の苗を試しにいろんな處に植ゑてみた。日當りのいい塵塚の傍に植ゑたのは、六尺以下に伸びて、見事な盆大の花を澤山に着けた(略)痩せ地に植ゑて、水もやらずに打捨ておいたのは、丈が一尺にも屆かず、枝が一本も出なかつた(略)一錢銅貨大の花を唯一輪だけ咲かせた(略)人間は、果たして此れ程迄にひどくちがつた環境に、それぞれ藡應して生存を保ち得る能力があるかどうか疑はしい…
…今日神田の三省堂へ立寄つて、ひやかして居るうちに(略)哲學も科學も寒き嚏哉…
小山書店 昭和八年六月十日發行