乱読からのつぶやき

「苦海浄土」石牟礼道子

水俣病について書かれた名作。患者側の目線から、当時の漁業者の気持ちが伺える。十年以上続いた人災は恐ろしい。

…綱についてくるドベの工合からみて、漁民たちは、湾内の沈殿物は三メートルはある、と推測していたが、後にくる国会調査団も沈殿物を三メートルとしている。この頃になると、湾内の死魚や生魚の浮上はさらにはなはだしく、月ノ浦方面の猫は、舞うて死ぬ、という噂は、かなりの市民が耳にするようになるのである…

…彼らや彼女らのうちの幾人かはすでに意識を喪失しており、辛うじてそれが残っていたにしても、すでに自分の肉体や魂の中に入りこんでいる死と否も応もなく鼻つきあわせになっていたのであり、人びとはもはや自分のものになろうとしている死をまじまじと見ようとするように、散大したまなこをみひらいているのだった…

…当社が始めて採用したカザレー式合成法は当社の延岡工場に於いて世界最初の成功を挙げ、空中窒素固定法の方法に於ける革命的成果を収め…

…「なあ、わたしたちはいまから先は、どけ往けばよかじゃろかい」「こんどは火葬場たい」「うんにゃ、その前に人間料理るまないたの上ばい」…

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