乱読からのつぶやき

2020-01-01から1年間の記事一覧

「三つ編み」レティシア・コロンバニ

インド、シチリア、カナダの3人のヒロインが登場。地理的にも、社会的にも大きくかけ離れた境遇にあって、面識もない彼女たちの人生は、ちょうど三つ編みのように交差していく。最後のつながり、3人の力強さに勇気をもらった。 …順番がまわってきた。スミタ…

「鳥海山」森敦

鳥海山のことを書いた短編5作品が読める。初真桑では、蒸気機関車であろう汽車が、もどき、だましと呟き進んでいる。鴎や朝鮮凧のことも面白く読める。山形弁の会話も良い。「鳥海山」から、「月山」に続いていく。 …「ンだ。たンだこうして乗れば、動かねえ…

「中年の本棚」荻原魚雷

40歳から50歳へ年を重ねながら、エッセイを書き溜めたものをまとめた本。たくさんの50歳前後にまつわる本を読み、その内容について書かれている。荻原さんの本を読んでいると、なんだかホッとします。 …ジェーン・スーは、中年になってたどり着いた「生きて…

「残りものには、過去がある」中江有里

結婚披露宴を巡る6つの物語。一つの披露宴でつながっている。内容は、レンタル友達、不妊治療、引きこもり、片思い、格差婚などそれぞれ面白い。最後の物語につながる構成も上手い。 装幀:新潮社装幀室

「ノストラダムスの大予言」五島勉

ノストラダムスは、フランス人、医者、1551年に48歳と記載がある。予言書「諸世紀」原題名「les siecles」は木版印刷で200部ほど出版された。12巻、各巻100篇ずつの四行詩が納められている。1999年7月に人類は滅亡しなかったが、本文に、世界が終わる日前に…

「棺の中の悦楽」山田風太郎

ストーリー展開と構成が素晴らしい。最後の落ちも良い。 弱みを握られた脇坂篤が、訳ありの高額の現金を預かる。その現金は出所後に持ち主に渡すことになっていたが、長年好きだった匠子が結婚したことにより、篤は、開き直って1人半年の契約で合計6人の女…

「トランスファー」中江有里

玉音と寝たきりの洋海の姉妹の話。元気な玉音の身体に、洋海の心が入り、子どもや彼氏、母親の事で悩んでいる玉音の気持ちが交差する。 …深い海の中を漂っていると、すべての力を奪われる。あらがわず、クラゲが微生物のようにかすかな水流にさえ流されてい…

「思い出トランプ」向田邦子

エースからキングまで、13枚のトランプカードに見立て、13話の短編で作られてる。短編の中に、それぞれの人間模様と無駄のない構成が良く、内容は、何気ない日常の中で痛くもあり、怖くもある。 …新聞や雑誌をひらくと、指という字だけが向こうから飛び込ん…

「愛の渇き」三島由紀夫

大阪の田舎で生活する悦子を主人公にした話し。良人(夫)良輔の死。彌吉、三郎などの人間模様。負の力から喜びや生きがいを感じる悦子が怖い。このような考え方もできるのかと感心した。 …悦子は四十度の熱がすでに十日もつづいて、その熱が封じ込められて…

「クレール」オード・ピコー

作家オード・ピコーは、2004年に「Moi je」を自費出版しデビューしたフランス人。BDタイプ、ジャンル、読者層など幅広い。 物語の主人公のクレールは、新生児病棟担当ナースで30代女性。理想のカップルを築こうと、彼氏フランクと同棲生活する話など。フレー…

「2020年6月30日にまたここで会おう」瀧本哲史

2012年6月30日、東京大学の伊藤謝恩ホールで行われた講義録。若者に向けて「君たちが未来を変えろ、2020年6月30日にまた会おう」と語ったが、2019年8月に病のため夭逝された。ボン・ヴォヤージュ。 あとがきから…この講義を聴いて、もし少しでも感じるものが…

「未来への大分岐」マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン、斎藤幸平

資本主義の終わりか、人間の終焉か? マイケル・ハート …コモンとは、民主的に共有されて管理される社会的富のこと… …感情労働者(医師、看護師など)は、個々人が、それぞれにもっている感情、つまり友情を育み、人を愛するための能力が商品として販売され…

「片乞い紀行」古山高麗雄

「旅」雑誌に執筆されたもの。北海道から沖縄まで、車、電車、船などで気ままな一人旅。最後の項は、奥様と旅行。この本を読んだら、無性に旅に出たくなった。飛行機でも電車でも車でも何でもいいから。 …とにかく私は旅が好きだ。好きなことで、できること…

「星界の報告」ガリレオ・ガリレイ

ガリレオは望遠鏡による観測を通じて経験的根拠に基づいて、地上世界と天上世界を全く異なるものと捉える伝統的な宇宙観を覆した。望遠鏡観測を始めて3か月後に、この本が1610年に刊行されている。望遠鏡という表現がなく、”覗き眼鏡”と訳されているのがいい…

「恐怖博物誌」日影丈吉

"孤の鶏"は、真次が、斧を脳天へ振り下ろしたところから始まる。じわりじわりと真相が判明していく。他4作品。大蛇を新築の家で預かったり、大晦日に神社で見たもののことなど、それぞれの恐怖が味わえる。 …さびしいなあ、何故こうなんだ、ひとりで生まれ…

「そら色の窓」佐々木美穂

原宿にあるZakkaで修業し、現在はフリーランスのイラストレーター。エッセイやコラムの執筆もされている。文章が優しくて癒される。もっと読みたい。 …その頃から、ずっと好きなのはドローイングだ。鉛筆やボールペンなど、普通の道具で描かれた線や文字。そ…

「僕は君たちに武器を配りたい」瀧本哲史

本書は、これから社会に旅立つ、あるいは旅立ったばかりの若者が、非情で残酷な日本社会を生き抜くための「ゲリラ戦」のすすめである。2011年に出版された本だが、現在読んでも役に立つ。 …コモディティという概念、市場の出回る商品が個性を失ってしまい、…

「四畳半タイムマシーンブルース」森見登美彦

四畳半神話体系(森見登美彦)とサマータイムマシーン・ブルース(上田誠)が悪魔合体?した作品。炎熱地獄と化した真夏の京都で、学生アパートに唯一のエアコンが動かなくなった。友人が昨夜リモコンを水没させたのだ。昨日へタイムマシーンで戻り、壊れれ…

「橙書店にて」田尻久子

熊本の橙書店の店長さんのエッセイ集。田尻さんの優しさがにじみ出ている。だからか、いろいろな人々が集まってくる。吉本由美さん、村上春樹さん、都築響一さんをはじめ、行定勲さん、近所の方まで多くの人達が橙書店にやって来る。 …「もうすぐ満月ですね…

「夏日夜話」東京朝日新聞社会部編

陽なたに出て、暑熱を越えての2部構成になっている。昭和2年8月発行なので第2次世界大戦前の様子が伺える。後半(暑熱を越えて)は、若き記者の体験談になっている。足尾銅山の坑夫体験、蒸気機関車の火夫体験(中央線の八王子駅発名古屋行き列車)、新…

「流浪の月」凪良ゆう

2020年本屋大賞作品。後半に出てくる”彼の話Ⅰ”は短かめの項だが切なく、でも報われる内容だった。全体的にスイスイ読める作品。 池袋の本屋4店。「旭屋書店池袋店、くまざわ書店池袋店、三省堂書店池袋本店、ジュンク堂書店池袋本店」本屋同盟で応援し共通…

「朝毎読」蜂飼耳

朝日新聞、毎日新聞、読売新聞に記載された、書評を集めたもの。2018年3月から、2010年1月へ過去の書評に戻っていく。いろいろな書評を続けて読むという読書も楽しい。この本は、内容、言葉がスーッと入って来る。作者が詩人だからだろうか。ページの最後に…

「三等旅行記」林芙美子

東京から巴里。巴里での生活。満州鉄道。表題の通り三等車両での汽車の旅や安アパートでの生活の旅行記。シベリア鉄道では、のどかで露西亜人の話が楽しい。巴里での生活も女性が異国の地で過ごす逞しさを感じつつ、時々涙した記載があり繊細な心模様も感じ…

「後世への最大遺物」内村鑑三

明治27年、芦ノ湖の畔での、キリスト教徒第六夏季学校の講話。我々は何をこの世に遺して逝こうか。金、事業、思想、文学?誰にも遺することのできるところの遺物は、勇ましい高尚なる生涯である。 …私に五十年の命をくれたこの美しい地球、この美しい国、…

「天、共に在り」中村哲

アフガニスタンで医師として活動し、旱魃(かんばつ)から餓死する人々を救うため、井戸を掘り、用水路の建設を行った。伯父に火野葦平がいる。2019年12月4日アフガニスタンで銃撃され死去。この30年の体験談、用水路の研究等に感動。惜しい人を失…

「けものたちは故郷をめざす」安部公房

戦争が終わり、巴哈林(パハリン)から、祖国日本を目指す。家を抜け出し、汽車に乗り込み、激寒の中歩いて行く様は、常に緊張感がある。眠気、飢え、凍え等人間の極限は想像を超える。最後は日本にたどり着けるのか。 …高は、最後の力をふりしぼつて、まっ…

「国境のない生き方」ヤマザキマリ

14歳で欧州一人旅、17歳でイタリア留学。シリア、ポルトガル、アメリカなどで生活。読んできた本、漫画のことを交えて、苦労や出会い、生活風景が面白く書かれている。特に、イタリア・フィレンツェで、文壇サロン「ガレリア・ウプパ」に入り浸っていたこと…

「こほろぎ」尾崎一雄

私小説短編8作納められているこの本は、会話の中に、ほのぼのと一緒に居るような感じで読める。病気がちな作者、戦中の出来事がゆっくりとした時間で流れている。「落梅」では、梅の実が落ちる6月になると母の死について思い出し、母の望み通り、脳溢血で…

「三十棺桶島」モーリス・ルブラン

三笠書房出版、保篠龍緒訳。本編に入る前のはしがきに、ルブラン作品中で最も異色ある作品である。理由として、1スリラーとミステリーを中心とした推理小説。2ルパンは何も盗んでいない。3探偵や警察が一人も出てこない。4他の作品には絶対に現れていな…

「帝国の構造」柄谷行人

「世界史の構造」の出版、これを中国で解説を加え講演、それをまとめ「現代思想」に連載、そして全面的に改稿し表題を変えて「帝国の構造」が出版されたと、あとがきに書かれている。この流れがあったからか、各章ごとに区切られた量も程よく、読みやすく、…