乱読からのつぶやき

2022-01-01から1年間の記事一覧

「見仏記」いとうせいこう みうらじゅん

仏像愛が伝わる作品。いとう氏とみうら氏のコンビも絶妙。 …表情や様子は大切なもので、その形は人間の表情を支配する。気持ちがなごむから微笑むのではなく、微笑むから気持ちがなごむこともある。まるで奇妙な鏡のように、その如意輪は私に微笑みの形を教…

「灯のうるむ頃」遠藤周作

東京の片隅で一人ひっそりと町医者を営みながら、癌の研究を続ける老医師と医師を目指すその息子等のお話。親子世代を超えて関わる、狩野医師家族の構造が絶妙。 カバー:和田誠

「そこから青い闇がささやき」山崎佳代子

ベオグラード、戦争と言葉。と副題が付いている。山崎さんは、セルビア共和国ベオグラード市在住の詩人、翻訳家。当時、ユーゴスラビアで戦争が起きていた時に、避難せずに生活を続けた。戦争では、橋が落とされ、病院や学校が爆撃された。近隣の知人が亡く…

「夜は満ちる」小池真理子

短編集、7作品収録している。大人の恋と怖さが癖になる作品。 …父は二十数年前、この家を建てた後、女と暮らすために出て行った。初めっから、そのつもりだったのよ、と母は後になって言ったものだ。あたしたちにこの家、残して、これで文句はないだろう、っ…

「珈琲挽き」小沼丹

講談社文芸文庫で読む。随筆集で、3部に分かれている。一部*は、身近な出来事。二部**は、自然、家の庭の事。三部***は、イギリスでの生活などが書かれている。全編、ほのぼのとした内容。 …いつだったか、この帽子を失くしたことがある。酔っていたか…

「中央線小説傑作選」南陀桜綾繫編

内田百閒、五木寛之、小沼丹、井伏鱒二、上林暁、原民喜、太宰治、吉村昭、尾辻克彦、黒井千次、松本清張と豪華な作家作品で構成されている。 太宰治や松本清張のハラハラドキドキ感が特に良かった。たまらん坂のエピソード探しも良い。 …同じ中央線沿線の武…

「とりかえばや物語」田辺聖子

古典作品で田辺聖子氏が現代語訳し読みやすくなっている。あとがきによると、軍国主義の戦前では、退廃的な物語は読むことが出来なかった。この物語は、筋の面白さ、奇想天外なアイデア、人物像が生き生きしている、現代的な刺激に満ちていると評価している…

「推し、燃ゆ」宇佐見りん

実生活で思い通りに行かない時、精神を安定するために、何か縋りたくなる時がある。この小説の主人公は、アイドルグループの上野真幸くんがそれだった。その彼がファンを殴ってSNSで炎上する。推しの彼が普通の人になったら… …携帯やテレビ画面には、あるい…

「河合隼雄の読書人生ー深層意識への道」河合隼雄

「深層意識への道」を復刊した文庫本。読んだ本を自分の人生の中で、どのように生かしたか、読書体験を通した自伝のような本。幼少の頃は、「少年俱楽部」「世界名作選」を兄たちと読める環境にあり、大学時代には、夏目漱石やホフマン等読んでいるのが興味…

「アポロンの島」小川国夫

小川国夫氏が自費出版した作品。写真の本は、9年後に審美社から出版された本。本人のあとがきに、アポロンの島は、昭和三十二年に多島海のミコノス島へ行った時のことを殆どそのまま書いたと記されている。情景が浮かぶ書き方が良い。 …ミケネの遺跡はアテネ…

「ブラックボックス」砂川文次

第166回芥川受賞作品。自転車走行の描写がアクティブに書かれている。後半の切り替えしも文脈が面白い。 …働くというのは、選んでいるように見えてその実選ばれる側なんだ、と思い知らされたようだった。ちゃんとできるなら今すぐにでもしたい… 装幀:川名潤

「毎月1万円で2000万円つくる!つみたて投資・仕組み術」森永康平

情報を得ることは大切です。「老後2000万円問題」から1年後の2021年1月出版された本。投資の王道と呼ばれる「つみたて投資」を中心に分かりやすく書かれている。「将来のことは誰にもわからない」という当たり前のことを忘れずに、お金のことを考えてみるの…

「死の快走船」大阪圭吾

短編15編、昭和初期の頃の探偵小説作品。「新青年」等に掲載されたもの。江戸川乱歩の時代を彷彿させ、内容も面白い。 …履歴書によると、水田女史は新潟の出身で、なかなか教育もあり、驚いたことには、現在東京市内の某市立女学院の家事の先生を務めている…

「月まで三キロ」伊与原新

月のこと。雪の結晶のこと。アンモナイト化石のこと。プレアデス星のこと。火山のことなど、科学的視点とストーリーの混在が良い。読みやすくて引き込まれる作品。 …自分でもたじろぐほど胸が震えた。誰かに心配されるというのは、こんなに嬉しいことだった…

「苦海浄土」石牟礼道子

水俣病について書かれた名作。患者側の目線から、当時の漁業者の気持ちが伺える。十年以上続いた人災は恐ろしい。 …綱についてくるドベの工合からみて、漁民たちは、湾内の沈殿物は三メートルはある、と推測していたが、後にくる国会調査団も沈殿物を三メー…

「文藝春秋2022年1月号」創刊100周年記念

創刊から100年!よくぞ続いてくれた。100年の100人を読むと、層々たる名前があがっている。記事を書いた方々も有名な方が多い。2世3世も健在。BEST OF 日本の顔も良い。 …本田宗一郎:「お前たち、ホンダが何をやっているのか知ってるか?」と聞いてきた。み…