乱読からのつぶやき

「トランスファー」中江有里

玉音と寝たきりの洋海の姉妹の話。元気な玉音の身体に、洋海の心が入り、子どもや彼氏、母親の事で悩んでいる玉音の気持ちが交差する。

…深い海の中を漂っていると、すべての力を奪われる。あらがわず、クラゲが微生物のようにかすかな水流にさえ流されていく感覚は、奇妙に心地よかった。そうやって自意識を投げ出していれば、体が楽になっていく。少しでも意識的に動こうとすると呼吸は乱れ、痛みに襲われる。こうした苦しみから逃れる方法をわたしは学んでいた。でも意志を働かせずにいることが怖くもあった。この状態は生きていると言えるのだろうか。(略)いったい生きるってどういうことなんだろう…

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装幀:片岡忠彦 装画:小牧真子