乱読からのつぶやき

「脳科学者の母が、認知症になる」恩蔵絢子

記憶を失うと、その人は“その人”でなくなるのか?をアルツハイマー認知症の母と生活の中から、学者目線と家族目線の両方から書かれている。人それぞれだろうが、状況分析がアルツハイマー認知症の理解につながる分かりやすい本

...母の変化は、要するに、海馬の萎縮と後頭頂皮質の活動低下、またゆっくりとした大脳皮質全体の萎縮により、記憶力、注意力、判断力など、認知機能が衰えることで見られる人格変化である。(略)正しく情報が伝わりさえすれば、母は今までと同じ反応を見せるのである。(略)私は、認知機能の作る「その人らしさ」と、もっと根本的な感情の作る「その人らしさ」と、二つのその人らしさがあるのではないだろうか、と考えた…

鈴木成一デザイン室 原けい(カバーイラスト)

 

「モア・リポートの20年」小形桜子

1980年、雑誌「モア」誌上で女性の性に関するアンケートが実施された。1987年には、モア・リポートNOW。1998年には、モア・リポート99が実施され、この3回のリポートを基にまとめた新書。女性の性の実態が分析されている。

2001年1月22日第1刷発行

…我々の社会の中で、コミュニケーションとは広義においては「交換」である。それは、お互いの間で何等かの価値や意味や思いを共有する行為であり、相互関係である。彼女たちは、そんな相互関係をもつことに臆病になったり、回避しているように見える…

…恋愛は一対一で向きあい、傷ついたり傷つけたりしかねない関係である。相手を自分にとってかけがえのない存在とする時、自分もまた相手にとってそのような存在であるためには、自己を開き、自分を相手にゆだねる勇気と能動性が求められるはずだ…

 

「なにがなんでも ほがらか人生相談」鴻上尚史

ほがらか人生相談の4冊目。多様な相談に的確に答えている。演出家、鴻上さんの苦労の賜物と思われる。参考になります。

…まずは、楽しさを経験させ、そして、ほめるのです。なんでもかんでもほめろと言っているのではありません。ほめる時には「待つ時間」が短い人と長い人を見分けることが大切なのです…

イラストレーション:佐々木一澄、ブックデザイン:鈴木成一デザイン室

 

「見仏記」いとうせいこう みうらじゅん

仏像愛が伝わる作品。いとう氏とみうら氏のコンビも絶妙。

…表情や様子は大切なもので、その形は人間の表情を支配する。気持ちがなごむから微笑むのではなく、微笑むから気持ちがなごむこともある。まるで奇妙な鏡のように、その如意輪は私に微笑みの形を教えているのだ、と思った。確かに、顔を見ると途端にこちらの頬がゆるむ。なるほどなあ、とひとりごとが出た。これが仏像の力だったんだ…

カバーデザイン:安斎肇

カバーイラスト:みうらじゅん

「灯のうるむ頃」遠藤周作

東京の片隅で一人ひっそりと町医者を営みながら、癌の研究を続ける老医師と医師を目指すその息子等のお話。親子世代を超えて関わる、狩野医師家族の構造が絶妙。

カバー:和田誠

 

「そこから青い闇がささやき」山崎佳代子

ベオグラード、戦争と言葉。と副題が付いている。山崎さんは、セルビア共和国ベオグラード市在住の詩人、翻訳家。当時、ユーゴスラビアで戦争が起きていた時に、避難せずに生活を続けた。戦争では、橋が落とされ、病院や学校が爆撃された。近隣の知人が亡くなっている。実体験が伝わってくる。

…私はひとりで、窓の向こうの空を眺め続けた。炎は、しだいにゆるやかになってゆき、あんなに黒々と吐き出された煙が、静かに消えてゆく。(略)トマホークが私たちの耳の奥に残した音は、激しい音だった。鳥の声は、小さな声だ。だが、これからの私の命に勇気を与えてくれるのは、激しい炸裂音ではなくて、鳥たちの囁きに違いない…

…ステバン氏は言った。文学にとって大変な時代が来る。質より量が押し寄せる。何が良いものか、それを見出すことが困難になっていく…

カバーデザイン:五十嵐哲夫

 

「夜は満ちる」小池真理子

短編集、7作品収録している。大人の恋と怖さが癖になる作品。

…父は二十数年前、この家を建てた後、女と暮らすために出て行った。初めっから、そのつもりだったのよ、と母は後になって言ったものだ。あたしたちにこの家、残して、これで文句はないだろう、って言わんばかりに、最初っからあの女と暮らすつもりでいたのよ…

集英社文庫