乱読からのつぶやき

「銀座幽霊」大阪圭吾

昭和10年頃に、雑誌「新青年」に掲載された短編11作品。戦前の雰囲気も味わえる。

…全く、座席の後ろの四角い硝子窓からは、テール・ランプに照らされて仄赤くぼやけた路面が、直ぐ眼の下に見えるだけで、あとは墨のような闇だったのだが、直ぐにその闇の中に、何処からか洩れて来る強烈な光に照らされて、いま自動車が通り越したばかりの道端の道路標識が、鮮やかにも浮きあがるのだ…

東京創元社

 

「レンズが撮らえた幕末明治の女たち」 監修 小沢健志

幕末明治の日本に生きた女性たちを今に見ることができるのは、十九世紀半ばから後半の世界における写真の勃興期に、いち早く隆盛した初期日本写真の功績によるものである。明治に東京百美人・・美人コンテストがあったことにビックリ。今見ても美人揃い。レンズが撮らえたシリーズはどれも見ごたえがある。

山川出版社

「学び続ける理由」戸田智弘

99の名言と学びについて書かれている。一通り読んだら、時々ペラペラめくりながら読みたい。

…自分が学んだことを、誰か他の人に教えてみる。そうすることでもう一度学ぶことが出来る(略)他の人に説明してみると、自分の理解が不十分だったり、曖昧だったりする点がはっきりと見えてくる。それを自分でつぶしていくことで自分の理解の度合いが高まるのだ…

Book Designer 寄藤文平 鈴木千佳子

「こりずに わるい食べもの」千早茜

わるい食べものの第3弾。何々が嫌いだと言い切るエッセイ。食べることが大好きなことが良く伝わってくる。今回は、京都から東京に引っ越し、コロナ禍のときに書かれた作品。茜氏、挿絵担当北澤氏、編集T嬢との仲の良さが3作に繋がったのかも。

…京都を離れる前夜も「兵馬俑」をした。まだ仕事も終わっておらず、一日中段ボール詰めをしていたにもかかわらず、目の下にくまを作りながら餃子を包む私を、家人は恐怖のまなざしで見ていた…

装画・挿絵:北澤平祐 装丁:川名潤

「街とその不確かな壁」村上春樹

読了。世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド海辺のカフカ騎士団長殺し、そしてノルウェーの森などの要素が入った作品。村上ワールド満載。文學界1980年9月号に掲載された作品を書き直した作品。

…コーヒーショップのスピーカーから流れる、ポール・デズモンドのアルトサックスの音色を思った。尻尾を立てて庭を横切って歩いて行く痩せた孤独な雌猫のことを思った…

…私の記憶と、私の現実とがそこで重なり合い、ひとつに繋がって混じり合う。私はその様子を目で追っている…

装画・本文カット タダジュン

 

「双面の天使」小池真理子

表題の作「双面の天使」新しいママがふたりに頼んだ赤ちゃんとの留守番の話。子どもたちが行ったことだけに怖さが倍増する。他の作品含ためサイコ・スリラー4編。

…三月というのに、雪でもちらつきそうなほど寒い日だった。午後五時。日が落ちて、窓の外はすでに暗くなり始めている…

写真:amanaimages