乱読からのつぶやき

「けものたちは故郷をめざす」安部公房

戦争が終わり、巴哈林(パハリン)から、祖国日本を目指す。家を抜け出し、汽車に乗り込み、激寒の中歩いて行く様は、常に緊張感がある。眠気、飢え、凍え等人間の極限は想像を超える。最後は日本にたどり着けるのか。

…高は、最後の力をふりしぼつて、まっすぐ立ちつづけていた。まっすぐに立つことこそ、人間の尊厳の度合だというのが、日頃の彼の信念だつたのである。(中略)久三は、すでに坐りこんでしまつている。救われたという気のゆるみが、全身を甘い虚脱につつみこみ、すでに飢えさえ感じなくなつているのだ。発育ざかりの死とたわむれていることさえ、心たのしかつたにちがいない…

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装幀・カット 安部真知

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