乱読からのつぶやき

「中年の本棚」荻原魚雷

40歳から50歳へ年を重ねながら、エッセイを書き溜めたものをまとめた本。たくさんの50歳前後にまつわる本を読み、その内容について書かれている。荻原さんの本を読んでいると、なんだかホッとします。

ジェーン・スーは、中年になってたどり着いた「生きていく上で、最も大切なこと」それは、誰かに与えてもらうものではなく、甲冑を「着たり脱いだり」しながら戦い、つかみとるしかしかない…

…今の世の中は、年相応の生き方の難易度がものすごく上がっていることを痛感する。人生五十年、六十年時代ならあっという間におじいさん、おばあさんになれるが、今は、人生九十年、百年になり、そう簡単に中年期が終わらない…

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装幀・装画:鈴木千佳子

「ノストラダムスの大予言」五島勉

ノストラダムスは、フランス人、医者、1551年に48歳と記載がある。予言書「諸世紀」原題名「les siecles」は木版印刷で200部ほど出版された。12巻、各巻100篇ずつの四行詩が納められている。1999年7月に人類は滅亡しなかったが、本文に、世界が終わる日前には、多くの戦争、地震や洪水や疫病、彗星の出現、男女の間の乱れ、公害、飢餓、そのほかさまざまの忌まわしいできごとと記載がある。人類に来る危機について考える機会になった。諸世紀の四行詩が抽象的で、多方面から解釈ができ、もしかしたらという不安や、イマジネーションが広がる要素のなっていると思われた。自分の思考で、2500年の世界を考えてみるが、小説やSF映画で得た情報が浮かび、新しい発想、空想をすることの難しさを感じた。コロナ禍の今、ペストの話から始まるこの本は、色褪せず読むことが出来た。

…人類の思想は~とくに終末に挑む哲学は、もちろんキリスト教だけではないのだ。たとえば仏教には、人間は主体的な意思で運命を変えられる(中略)もし、この考え方をみとめるならば、「定められた未来」はそれほど問題でなくなるだろう。仮にいま、私たち一人一人が大気や水やその他いっさいの環境を汚すのをやめ、内部深くにあるエゴや戦争への衝動や、それへの傍観を克服できれば、そして、それを全人類におよぼせるのならば、少なくとも人為的な破壊だけは避けることができる…

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多く増版された本だが、古本屋で見かけることが少なくなった。

「棺の中の悦楽」山田風太郎

ストーリー展開と構成が素晴らしい。最後の落ちも良い。

弱みを握られた脇坂篤が、訳ありの高額の現金を預かる。その現金は出所後に持ち主に渡すことになっていたが、長年好きだった匠子が結婚したことにより、篤は、開き直って1人半年の契約で合計6人の女性と付き合い、その現金を使いきってしまう。匠子の残像から離れられない男の切なさ、愚かさを感じる。

…篤はむくりと起きあがった。押入れのまえに、例のトランクはおかれたままになっていた。彼はいちど深呼吸をしたのち、止め金をはずし、いっきにそのふたをひらいた…

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装幀:真鍋博

「トランスファー」中江有里

玉音と寝たきりの洋海の姉妹の話。元気な玉音の身体に、洋海の心が入り、子どもや彼氏、母親の事で悩んでいる玉音の気持ちが交差する。

…深い海の中を漂っていると、すべての力を奪われる。あらがわず、クラゲが微生物のようにかすかな水流にさえ流されていく感覚は、奇妙に心地よかった。そうやって自意識を投げ出していれば、体が楽になっていく。少しでも意識的に動こうとすると呼吸は乱れ、痛みに襲われる。こうした苦しみから逃れる方法をわたしは学んでいた。でも意志を働かせずにいることが怖くもあった。この状態は生きていると言えるのだろうか。(略)いったい生きるってどういうことなんだろう…

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装幀:片岡忠彦 装画:小牧真子

「思い出トランプ」向田邦子

エースからキングまで、13枚のトランプカードに見立て、13話の短編で作られてる。短編の中に、それぞれの人間模様と無駄のない構成が良く、内容は、何気ない日常の中で痛くもあり、怖くもある。

…新聞や雑誌をひらくと、指という字だけが向こうから飛び込んで来た。その字だけ活字が違って大きく見えた。胸が痛む、という言いかたは本当である。そういうとき、英子は胸のまんなかあたりが締めつけられるように痛くなり、うっすらと冷汗をかいているのが判った…

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装幀・挿絵:風間完

「愛の渇き」三島由紀夫

大阪の田舎で生活する悦子を主人公にした話し。良人(夫)良輔の死。彌吉、三郎などの人間模様。負の力から喜びや生きがいを感じる悦子が怖い。このような考え方もできるのかと感心した。

…悦子は四十度の熱がすでに十日もつづいて、その熱が封じ込められて苦しげに出口を探してゐる良人の肉體の傍らに坐ってゐた。レースの週末に近づいたマラソン選手のやうに、良輔は鼻孔をふくらませて喘いでゐる。寝床のなかで、彼の存在は懸命に走りつづけてゐる一種の運動體に化身してゐるのだ。悦子はといえば、悦子は聲援してゐる…

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