乱読からのつぶやき

「今日の芸術」岡本太郎

今年で生誕110年。岡本太郎の名著。今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。心地よくあってはならない。岡本の真髄がわかる。

…人は気づかないでいるかもしれないが、芸術は生活に物理的といえるほど強力な変化をあたえるのです。知らないあいだに、すべてのものの見かた、人生観、生活感情が根底から、ひっくり返り、今まで、常識や型にしたがって疑いもしなかった周囲が突然なまなましく新鮮な光にかがやきはじめます…

…自分が自分じしんで思いこんでいる自分の価値というものを捨てさって、自分の真の姿をはっきりさせ、ますます自分じしんになるということ、それがまた、じつは、おのれの限界をのり越えて、より高く、より大きく自分を生かし前進させていくことなのです…

f:id:keis7777777:20210207180908j:plain

カバーの絵 岡本太郎コンポジション」1954年作

「おしゃべり各駅停車」眉村卓

SFショート・ショート作品。作品前に、スピーチというかエッセイ、愚痴?のようなものが毎回ついている。こちらの方が面白く読んでいた。この様な並びは、通しで読むときに頭の切り替えが必要。雑誌「バラエティ」昭和53年4月~昭和55年1月に連載されていた作品群。

…人間という奴、生きて行くために文明を築きあげて来た。というより、他の生物を何とかはね返し、優位に立とうとしているうちに文明が出来たのです。そして、しだいに食って行けるようになるにつれて、ますますあたらしいものを作り出して来た。別になくったって生存には困らないものまで、次から次へと生み出している。文明全体が、人類のおもちゃではございませぬか?…

f:id:keis7777777:20210124174544j:plain

カバー・イラスト:古川タク ブック・デザイン:野村高志+K② 

本文・イラスト:安西水丸

「放浪記」林芙美子

1922年(大正11年)から1927年までの日記形式で書かれた自叙伝。貧しいながらも、仕事や住むところを転々としながら、悲しくて泣いたり、旅に出たしながら生きている。時代背景も感じられる。

女工が二十人、男工が十五人の小さなセルロイド工場、鉛のやうに生氣のない女工さんの手からキュウピーがおどけて出たり、夜店物のお垂げ止めや、前帯芯や、様々な下層階級相手の粗製品が、毎日毎日私達の手から洪水の如く流れていく…

…やつぱり旅はいゝ。あの濁つた都會の片隅でへこたれてゐるより、こんなにさつぱりした氣持になつて、自由にのびのび息を吸へる事は、あゝやつぱり生きてゐる事もいいなと思ふ…

f:id:keis7777777:20210117110719j:plain

復刻版:昭和47年印刷 原本:昭和5年印刷

 

「JR上野駅公園口」柳美里

上野恩賜公園でホームレスをしている1933年生まれの主人公が、高度成長期の東京オリンピック建設に出稼ぎをしたこと、東北の家族のこと、東日本大震災で家族を亡くしたことなど、話が交差しながらテンポよく読める。天皇家の方々が美術館等に訪れる、行幸啓のために、ホームレスは、一時公園から移動しなければならない話など興味深く読めた。

…あの日ー、時は過ぎた。時は終わった。なのに、あの時が、ばらまかれた画鋲のようにそこかしこに散らばっている。あの時の悲しみの視線から目を逸らすことができずに、ただ苦しむー…

f:id:keis7777777:20210109095206j:plain

装幀:鈴木成一デザイン室 装幀写真:高﨑沙弥香

「金閣寺」三島由紀夫

金閣寺を崇拝する僧が、火を放つことによってしか、美を永遠に保つことが出来ないと考え実行するストーリー。クライマックスに向かって高揚感が感じられる。実際に、昭和25(1950)年7月2日金閣寺は焼失した。

…私が人生で最初にぶつかった難問は美といふことだった(略)美がたしかにそこに存在してゐるならば、私といふ存在は美から疎外されたものなのだ…

…戦争はをはった(略)灼けた砂利の上には、かくて私だけの影があった。金閣がむかうに居り、私がこちらに居たと云ふべきだろう…

…例の娼婦を金閣の庭に踏んで以来、又、鶴川の急死このかた、私の心は次の問いをくりかえした。「それにしても、惡は可能であろうか?」…

f:id:keis7777777:20210102174217j:plain

装幀:今野忠一

令和2(2020)年11月25日、三島由紀夫は没後50年を迎えた。

f:id:keis7777777:20210102174323j:plain

令和2年12月29日、北山鹿苑禅寺(金閣寺)は18年ぶりの葺き替えられ、お披露目された。

「三つ編み」レティシア・コロンバニ

インド、シチリア、カナダの3人のヒロインが登場。地理的にも、社会的にも大きくかけ離れた境遇にあって、面識もない彼女たちの人生は、ちょうど三つ編みのように交差していく。最後のつながり、3人の力強さに勇気をもらった。

…順番がまわってきた。スミタは理容師からまえに出るよう合図される。うやうやしく進みでる。ひざまずいて目を閉じ、小声で祈りを唱えはじめる。広大な部屋の真ん中でヴィシュヌ神に彼女が何をささやいているかは秘密だ…

f:id:keis7777777:20201223233518j:plain

齋藤可津子訳 装画:網中いづる 装幀:早川書房デザイン室

「鳥海山」森敦

鳥海山のことを書いた短編5作品が読める。初真桑では、蒸気機関車であろう汽車が、もどき、だましと呟き進んでいる。鴎や朝鮮凧のことも面白く読める。山形弁の会話も良い。「鳥海山」から、「月山」に続いていく。

…「ンだ。たンだこうして乗れば、動かねえでも好きだとこさ行ける言うんども、どっさも行こうと言わねえだや」「しェえ、動かねえでも、食えるからなんでろ」…

f:id:keis7777777:20201214223653j:plain

f:id:keis7777777:20201214223719j:plain

装幀:司修