乱読からのつぶやき

「外科室・海城発電」泉鏡花

初期の代表作7編。明治期の表現で読みにくさはあるが、医師と患者の間柄で再開し手術する話や、検察官と殺人犯の間柄の話など内容にインパクトがある。

…渠は有間惘然として佇みぬ。その心には何を思ふともなく、きよろきよろと四面を眗せり。幽寂に造られたる平庭を前に、緑の雨戸は長く続きて、家内は全く寝鎮りたる気勢なり。白糸は一歩を進め、二歩を進めて、いつしか「寂然の森」を出でて、「井戸囲」の傍に抵りぬ…

 

「新戦後派」野坂昭如 寺山修司 永六輔 野末陳平

昭和44年に刊行された本。4名の著名人に毎日新聞社編集部が、インタビューしたものをまとめている。この4人は、昭和一桁生まれで、1945年8月15日に、何歳でどこにいて、終戦をどう迎えたかのか。昭和一桁生まれは、精神形成初期に、日常生活も教育も、国家による異常な緊縛を受け、国家の様々な施策や動向は、戦争末期の頽廃をあらわにした。これらを身に浴びて育った世代だ。焼け跡闇市派の野坂は、火垂るの墓を思い出すエピソードが身にせまる。寺山は、野球をコミュニケーションにたとえ発想の面白さを感じた。六輔、陳平はラジオやテレビのことが面白く書かれている。

イラストレーション:伊藤勝一

「贋作吾輩は猫である」内田百聞

夏目漱石の名作「吾輩は猫である」の三平君のビールを飲んで酔っ払っているところから始まる。人間観察の描写が面白い。

…君のとこの長唄の三味線なんか、よせばいいのだよ。今まで黙ってゐた校長の波斯猫が、にがにがしそうに云った…

装画:川上澄生

「いのちの初夜」北條民雄

ハンセン病癩病)患った青年が、収容施設に入り、生活や闘病生活の事など8編。あとがきは、川端康成が書いている。

…意志の大いさは絶望の大いさに正比する、とね。意志のないものに絶望などあろうはずがないじゃありませんか。生きる意志こそ絶望の源泉だと常に思っているのです…

短編「いのちの初夜」は、昭和十一年『文學界』二月号掲載

「天才はあきらめた」山里亮太

山ちゃんのこれまでの生活が書かれている。M1グランプリで準優勝し、M1バブルのことや、ネタ作りの執念が伝わるエピソードなど読みごたえがある。包み隠さず、気取らず書かれているのが良い。

…街中をぶつぶつ言いながらメモを取りながら歩いて、壁にぶつかって、その壁にぶつかったおかげで何かひらめいた!みたいなふりをして、外なのに座り込んで必死に何かノートに書き出すとか、なんとんなく自分の憧れる天才像をやって自分を勘違いさせていった…