乱読からのつぶやき

2021-01-01から1年間の記事一覧

「ABE MARIA」谷崎潤一郎

谷崎のフェチの要素を残しながら、戦後の早百合子の話。挿絵の東郷靑児の絵も色気があって良い。 …私は以前お前と一緒によく見に行った帝国館やキネマ倶楽部や金春館の時分の事を想い出す(略)私はいつもさふ思ってゐる、映畫と云ふものは人間か機械の力で…

「汽船」小沼丹

帯に書かれている、ほのぼのとした不思議な味わいの筆致と、ユニークな作風で知られる作家・小沼丹の初期作品。のびやかな青春時代を独特のユーモアで綴る珠玉短編集。その通りの作品だった。5作品とも描写と構成が上手い。 …しかし、白樺荘に客は来なかつた…

「青春怪談」獅子文六

美男子で合理主義の慎一と、バレエに身をささげようとする千春の話。その二人をうらやむ周囲の人から、仲を引き裂こうと怪文書が届く。それぞれの親のことなど、いろいろな要素も入り交じり、昭和の白黒映画を見ているような感じで楽しく読める。 …新橋駅で…

「論語と算盤」渋沢栄一

「論語と算盤」は元々、講演口述を「竜門雑誌」に掲載し、そのなかから、編集者の梶山彬が九十項目を選んでテーマ別に編集し、大正五年に発行されている。 今回、ちくま新書で読む。この本は、「論語と算盤」の中の重要部分を選び現代語訳されたもので読みや…

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」最果タヒ

現代詩集。あとがきに、私の詩を少しでも好きだと思ってもらえたなら、それは決して私の言葉の力ではなくて、最初からあなたの中にあった何かの力。と書かれています。言葉が頭の中に入って来て、読み終わった後、脳細胞に何かが起きた・・・ …きみが欲しい…

「みみずくは黄昏に飛びたつ」村上春樹、川上未映子

川上未映子が、村上春樹にインタビューする対談集。会場と時間を変えながら四回にわたって対談が行われた。第四回目は村上春樹の書斎で行われている。文庫版には二年ぶりに行われた対談も追加で収められている。作品のこと、作家作業のこと、趣味のことなど…

「唐草物語」澁澤龍彦

安倍晴明、プリニウス、藤原清衡、コムバボス、始皇帝などの話が12話書かれている。あとがきに、澁澤が「あらゆる模様のうちでアラベスクはもっとも観念的なものだ」とボードレールが『火箭』のなかに書いている。いうまでもなくアラベスクとは、唐草のこと…

「ベトナム戦記」開高健

「週刊朝日」に連載したものを箱根に1週間こもって書き直したもの。前半は、ベトナムの様子やベトナム人の人柄など面白、可笑しく書かれている。後半は、1965年2月14日、戦場のなかで死を意識するほどの最前線での実体験が伺える。文章表現もいい。ベトナム…

「今日の芸術」岡本太郎

今年で生誕110年。岡本太郎の名著。今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。心地よくあってはならない。岡本の真髄がわかる。 …人は気づかないでいるかもしれないが、芸術は生活に物理的といえるほど強力な変化をあたえるのです。…

「おしゃべり各駅停車」眉村卓

SFショート・ショート作品。作品前に、スピーチというかエッセイ、愚痴?のようなものが毎回ついている。こちらの方が面白く読んでいた。この様な並びは、通しで読むときに頭の切り替えが必要。雑誌「バラエティ」昭和53年4月~昭和55年1月に連載されていた…

「放浪記」林芙美子

1922年(大正11年)から1927年までの日記形式で書かれた自叙伝。貧しいながらも、仕事や住むところを転々としながら、悲しくて泣いたり、旅に出たしながら生きている。時代背景も感じられる。 …女工が二十人、男工が十五人の小さなセルロイド工場、鉛のやう…

「JR上野駅公園口」柳美里

上野恩賜公園でホームレスをしている1933年生まれの主人公が、高度成長期の東京オリンピック建設に出稼ぎをしたこと、東北の家族のこと、東日本大震災で家族を亡くしたことなど、話が交差しながらテンポよく読める。天皇家の方々が美術館等に訪れる、行幸啓…

「金閣寺」三島由紀夫

金閣寺を崇拝する僧が、火を放つことによってしか、美を永遠に保つことが出来ないと考え実行するストーリー。クライマックスに向かって高揚感が感じられる。実際に、昭和25(1950)年7月2日金閣寺は焼失した。 …私が人生で最初にぶつかった難問は美といふこと…