乱読からのつぶやき

2020-01-01から1年間の記事一覧

「文學雜考」ボオル・ヴァレリイ

堀口大學譯「書物に就いて。僕が尊敬する書物の殆どすべてと、僕に何等かの點で役に立つた書物の全部とは、いづれも相當に難讀の書であった。讀者の思念は、それらの書物から、離れる事は出期来ても、端折つてそれらの書物を讀むことは出来ないのだ。或るも…

「海辺の広い庭」野呂邦暢

騎士園という離島にある修道院に行く。我が家に転がり込んで暮らし始める人。雪の中での拳銃を落としてしまう。射撃競技。記憶を無くした六号。これら短編作品5編。どれも描写が丁寧でストーリーに引き込まれていく。 料理を作って待っている熊谷がいつまで…

「土と兵隊」火野葦平

杭州湾敵前上陸記。改造社から昭和13年に出版。兄が弟へ宛てた手紙形式で書かれている。狭い船上でのこと。上陸後は、泥道をひたすら歩き、戦闘のことなど淡々と書かれている。兵隊の目線なので、これから、何処へいくのか、今、何処にいるのか分からずも命…

「せどり男爵数奇譚」梶山季之

古本屋が出て来る本にまつわるお話。戦争中発禁になった「ふらんす物語」永井荷風や、スケールの大きい話の「フォリオ」シェイクスピア初版本。少し恐ろしい装丁の話など、面白くてもっと読みたい気分。 …名所旧所を見て歩こうと云う気はない。それは絵葉書…

「不思議の国のアリス」ルイス・キャロル

1章ずつ交互に違う訳で読んでみた。奇想天外な進展に、そのままを受け入れながら読んだが、2度めが頭に入りやすくより楽しめた。 高山宏訳「喝采!を試みんとする者あれど、廷吏等により即刻制圧」 河合祥一郎訳「裁判の終わりに歓声をあげようとする者が…

「美と共同体と東大闘争」三島由紀夫VS東大全共闘

令和2年3月25日にドキュメンタリー映画を観て大変面白く、早速文庫も読んだ。映画(映像)から、三島由紀夫は、知性・知識・ユーモアもあり人間性に好意を持った。 ☆肉体の外に人間は出られないことを精神は一度でも自覚したことがあるだろうか。なぜなら、…

「ゼロ年代の想像力」宇野常寛

「SFマガジン」に連載されていたものを、1冊の本にしたもの。ハヤカワ文庫版で読む。アニメ、ゲーム、文学、テレビドラマ、映画などを分析・解説し、その時代に流行った、その作品の意味が理解出来る。分析が分かりやすく納得する。 人間は弱い、目の前の小…

「本屋、はじめました」辻山良雄

本屋Titleを始める準備段階から運営までをつづった本。 カバーの裏に本屋の地図、栞も素敵で、この本を丁寧に大切に作っていることがよく分かる。本文から、本を並べる際に「意外性」を重視。ウェブサイドで「毎日のほん」コーナーを発信。お客さんに「邪魔…

「地には平和を」小松左京

ハヤカワ・SF・シリーズ3052(短編11作品) 昨年購入した角川文庫(短編3作品) 「地には平和を」以外は別の作品がそれぞれ納められている。しかし、小松左京作品が身近に読めるのはうれしい。早川書房の本では、時間軸を越えて人間模様が描かれた短編作品が…

「背高泡立草」古川真人

第162回芥川賞受賞作品。候補4回目で受賞した。 作品は、納屋の草刈りに出かけ草刈りをする話。盆正月に実家で過ごすような、ゆるりとした時間の流れを感じた。草刈りの話と交互に、古い時代のその場でのエピソードを入れながら、最後は草刈りに繋がって…

「夢もまた青し」志村ふくみ 志村洋子 志村昌司

人間国宝の志村ふくみとその家族で書いた本。織物、染織のことが書かれている。草木染めは、草木を煮出して染液を作り、その染液に糸を浸けて染める。草木から染める時は一種類の草木だけで染める。しかし、化学染料は、記号化された色で、色と色を掛け合わ…

「荒野の古本屋」森岡督行

2014年発行の本。茅場町の古美術店が閉店するときにたまたま訪れた、古いビルで古本屋を始める。写真集を中心に販売、一誠堂書店で働いたことが生かされている、ロバート・キャンベルとの関係など、運だけではなく、きっと日々の仕事や生活の積み重ねが生か…

「貧しさ」マルティン・ハイデガー、フィリップ・ラクー=ラバルト

「貧しさ」は、ハイデガーが1945年6月疎開先で行った短い講演の記録。18世紀から19世紀の移行期にヘルダーリンが次のような導きとなる言葉をしるしている「我々においては、すべてが精神的なものに集中する。我々は豊かにならんがために貧しくなった」この言…

「智惠子抄」高村光太郎

智惠子の夫、光太郎の愛情が伝わる作品。智惠子は、精神疾患になり光太郎より先に亡くなっている。最後の「梅酒」は、死んだ智惠子が生前作っておいた梅酒から作った詩で、光太郎の気持ちが切ない。 新潮文庫:表紙の切り絵は智恵子作

「妻への手紙」堀辰雄・堀多恵子

手紙を本にした作品を読むのは初めて。昭和12年から、昭和18年までの妻に宛てた手紙を中心に作られており、妻への愛が小説を読むように感じられる。 …本屋歩きを、神田、京都などで行っており、「本を両脇に抱えてにこにこ返って来た姿を今でも浮かぶようで…

「檸檬」 梶井基次郎

「檸檬」を十字屋書店版(昭和15年出版)で読んだ。初版本(昭和6年)ではないが、良い感じにセピア色になっている。八勝堂書店の閉店セールで購入した。 多くの作品は描写が多く、文体に慣れるのに少し時間がかかった。作品は、日本文学アルバムをみながら…

「夜と霧」ヴィクトール・E・フランクル

ドイツ強制収容所の体験記を読了。 霜山徳爾訳で読んだ。まずは、写真・図版での白黒写真で悲惨な状況を見てから、P73まで続く解説を読んで気分が重くなる。なんて悲惨なことを人間はするのだろう…解説は、外からの目線で歴史的事実を知る事ができる。本編は…